〜時は日本の高度経済成長期〜
『広田湾埋立て開発に反対する会』
景勝のリアス式海岸が続く岩手県の最南部、気仙川が注ぐ陸前高田市と宮城県唐桑町に深く切れ込んだ広田湾の洋上は、その日満艦の大漁旗をはためかせ白い航跡を引く漁船にあふれた。一方、高田の会場でもふる里を環境破壊から守りたい切なる心と心が融合し昇華した。91年に開発計画は撤回された。市民運動が功を成した数少ない事例であった。
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「広田湾埋立て開発に反対する会」の河野通義は当時、岩手県内大手の酒造メーカー酔仙酒造の専務を辞して八木澤商店の当主に戻り、同会の会長として石油コンビナート建設反対運動のコーディネートを務めた。
この頃、熊本県水俣市チッソ水俣工場の有機水銀排水を原因とする水俣病や三重県四日市市の石油コンビナートの大気汚染を原因とする公害や環境破壊が各地に起こっており全国の市民が苦しみ、大きな社会問題になりつつあった。 |
通義は公害論を学ぶため宇井純東大助手が開く東大自主講座に毎回出席し、その都度、手弁当で新幹線開業前の東北線に二日間揺られた。
河野さんとの出会い
その河野通義氏(当時酔仙酒造会長)にお会いしたのは七年前の96年、ご自宅の応接間であった。この時、長男和義氏(八代目)は家業の八木澤商店の社長であり、私が当時代表をしていた「らでぃっしゅぼーや」が毎年開催する生産者全国集会で、いつも「食の心」を話して頂ける代表的存在の加工メーカー生産者であった。そして、もう一枚渡される名刺は「全国太鼓フェスティバル会長」「(財)日本太鼓連盟評議委員会議長」太鼓・太鼓・祭りで、どちらが主で従であるか定かではない氏である。多分どちらも主であり、更にその主は広範囲に及んでいる。現代農業増刊号「地域から変わる日本・地元学とは何か」農文協出版の文章の冒頭では「八木澤商店をご存知ですかって?お客さん、陸前高田で何かやるときはあそこが本陣なんだよ。代々そうだ。」(タクシーの運転手さん)と一文が付くほどである。
さあ、陸前高田へ出発!
この朝、「明日の13時15分に高田到着、よろしくお願いします」と連絡を入れておいた所、折り返し奥様から「木原さん今日の予定じゃないの」「エッ」絶句。僕の勘違いである。農家に会うべく静岡に着いた所だ。車を静岡の自店に置き、下着、ソックス、シャツを揃え新田次郎著密航船水安丸持って新幹線に飛び乗った。今回の旅はかねて打ち合わせのとおり、要所要所から携帯で画像を送り、刻々とHP「おいしいFU―DO」にUP、構成する予定だ。
静岡発12時10分、東京駅での乗換え時間6分をクリアー。フー!で缶ビールを1本。
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16時56分一ノ関到着。
迎に来て頂いた奥さんの車を運転し、近況報告をしながら1時間後、無事陸前高田に到着。
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応接間に上がると和義社長、弟で酔仙酒造製造課長の正義さん、九代目になる息子さん達が待っていた。隣の静かな蔵ではまだ粛々と仕事をしている最中だ。
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と言うのも、三陸沿岸のこの地域は今、鮭の水揚げに追われ「いくら醤油漬け」加工の最盛期であり何処の加工場も繁忙期で、その原料となる醤油の調味液製造に毎日終われているとの事だった。
大変申し訳なく思うなかを私達4人は息子さんを残し、全国の利き酒会で好成績を残してきたご主人が腕を振るう「田舎」に試飲用の酒を携え、宵・酔いの行動に移行した。
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久しぶりの再開に盛り上がってしまった夜
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アイナメ、唐桑の生牡蠣、肝醤油で食べるイカ、大きなタナゴ(この頭の一部分がすこぶる美味)キンキにカレイにホタテなどなど、これには当然きりっと切れた味の酔仙「純米吟醸冷おろし」に「大吟」モンドセレクション金賞受賞焼酎「古古」だ。 |
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昔話に花が・・など咲かすひまなく、こんにちの食の姿、食の哲学、未来の食へのあり方はと花が咲いたのでありました。
かつての酒豪たちも今は節度在る酒飲みとなって夜を接ぎました。
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八木沢商店醤油の醸造
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醤油の醸造工程は適度に給水させた陸前高田産大豆を蒸煮すると共に岩手県産南部小麦を炒って引き割り、
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大豆と合わせた後(大豆と小麦は濃い口醤油ではほぼ同量)醤油麹菌を打ち製麹します。3日〜4日すると麹菌の働きでタンパク分解酵素プロテアーゼやデンプンを分解する酵素アミラーゼなど数多くの酵素が生成されます。
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出来上がった醤油麹は杉桶に移され(出麹)、長崎県五島列島産の自然海塩を溶かした食塩水と混合します。これが諸味です。(一般的には食塩水の量は同量〜120%量で、塩分濃度は製品時の濃度17%程度、減塩は13%前後ですから蒸発量を逆算して決めます。今回八木澤さんには聞いていません)
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かくして発酵、熟成するのですが、時おり諸味をよく混和するために攪拌(荒櫂)します。(一般的には圧搾空気を送り込み攪拌します。)八木澤さんでは杉桶の諸味は昔ながらの櫂でつく、のどかな荒櫂風景です。
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杉桶の中で静かに二年間熟成された諸味はろ過布の中に折りたたまれ、朱漆の舟(揚槽)に積み敷かれ江戸期以来の梃子の原理でゆっくりゆっくりと搾ります。四合壜500本を取るのに1週間をかけます。 |
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歩留まり60%のこの古式搾りは大豆の油成分が溶出せず、雑味のない長期熟成醤油の旨味と濃い赤ワインのような透明感ある「むらさき」ができます。この醤油が「き」「生揚げ」「なま醤油」と呼ばれるものです。これを65℃の低温で火入れをし、半生のままビンに詰めます。
他に醸造される醤油は90%の歩留まりで圧搾し、83℃で火入れをしてビンあるいはペット容器に詰めます。
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「農林大臣賞を受賞した醤油は普通醤油よ」「家で一番安いの」「梃子搾りはもともと出品しなかったの、大手さん造っていないから」同じ土俵での評価に臨みましょうと言うことだ。相変わらず剛毅の人である。
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帰り際、なにやら積み上げた山の中からゴソゴソ引っ張り出している。「コレ」一応額には入っていた。
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八木沢商店の漬け物と自根キュウリ

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気仙川沿いに奥さん(光枝さん)が担当する漬物工場がある。 |
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漬物だけでなくゆずポン酢醤油や各種のタレ、麺つゆも製造。
地元の原材料を優先し全国の有機生産者の原材料と自前の醤油や地場大豆の味噌を使い製造しているHACCP対応工場だ。
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近年一番人気は「自根胡瓜漬」である。
自他共に認める陸前一の「大ばか者」である醤油屋の御亭主殿は陸前一のおいしい胡瓜栽培農民として全国区の知名度を持つ。この9月にはTV番組「どっちの料理ショー」に仕事人として取り上げられた。しかし大臣賞の醤油でもなく漬物でもなく胡瓜でである。
自根キュウリの畑
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「じこんキュウリ」と聞いて何か新しい品種ではと思う方が殆んどではないでしょうか、これは間違い。全国の市場出荷されるキュウリのほぼ100%はカボチャの台木に接木をした苗を使っています。
この方法は病害に強く収量が上がるためです。八木澤さんの「自根胡瓜」とは文字どおり自分の根で土壌の養分を吸収するキュウリのことです。
なぜ自根胡瓜なのか、理由はおいしいから。
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そしてブルームキュウリ。ブルームはキュウリ表面の白い粉状のもので、水分の蒸散を防ぐ役目をしています。このため表皮は柔らかく内部の細胞は確りしたおいしい胡瓜です。しかし白い粉が残留農薬と間違われたり、イボ同士が表皮を傷つけやすく市場からは敬遠されています。
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一般的に店頭に並ぶキュウリはブルームレスが主流です。水分の蒸散を防ぐための濃い緑の硬い表皮を持ち青々として新鮮に見え取り扱いが楽です。
重要なミネラル
キュウリの水分率は90%以上、牛乳の水分率は88%位ですからキュウリは牛乳より柔らかい野菜です。したがって、この水分の内容をとても大切にしている和義氏はライフ農法を取り入れ土壌のミネラルバランスを整えます。さらに、眼前に広がる綺麗な陸前の海から海水を汲み100倍希釈して葉面散布し必須微量ミネラルを人の細胞に含まれるミネラル含有値に近似させる努力をしています。なぜか、それは太古の海で命を授かった生物は今も海のミネラル組成値と非常に等しい組成値を持ちます。私達の細胞は進化した今日でも海を忘れていないのです。
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ゆえに醤油の10数%を占める塩を「きわめびと」集団、八木澤商店は大切にしています。NaCl塩ではなく自然海塩をです。そしてこのことは海の環境を守ることに繋がって行きます。通義氏と市民が守り抜いた陸前の海は高田の松原と共にこれからもその秀美な景観を郷土の心として次代に継ぐ事でしょう。
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風土の熾き火は、今また和義氏から吹き送られる風によって地元学となってスタート、さらに岩手県の「食の地元学」となりやがて大きな紅蓮の炎と燃え盛ることでしょう。 |
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日本一の大ばか者になってください。
僕はこの一家、心から好きだ。
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