農薬・化学肥料・添加物に頼らずに‘食’を創り出す、この20年間に出会った生産者の探訪記。食を探究する生産者や料理人や主婦の方に有機農業の情報も含め、生真面目に丹精込めて作られた食の技、思い、人、その背景を伝えていきたい。紹介する生産者は僕が心から応援したい一緒にあんぜんな食の世界を作ってきた仲間たちです。


〜長野県白馬村〜 JA大北 白馬アルプス農場有機センター(2003.9.24訪問)
信州アルプス放牧豚
北アルプスの自然をブヒブヒ野駆け
武田さん



信州へ!
雲の端が金色に輝き数条の光の帯が伸びる。モスグレーの雲の下面が真っ赤に彩られてきた。今回の訪問先はJA大北で白馬、南小谷と移動する予定でもあるし、翌日は長野市北部の三水村を訪れることになっている。気力と体力が残っていれば日本海側の糸魚川にある新潟県最古の造り酒屋、加賀の井酒造まで足を伸ばそうかと思い車で出発した。
朝霧高原で秀美な朝富士を眺めることができるかと期待していたが今回の旅の天候を予報するように雲が垂れ込め始めた富士山だった。

御坂の山塊を越え中央高速に入ったが鳳凰三山、甲斐駒は雲の中だ。八つの編笠、権現、主峰赤岳、中岳、阿弥陀には雲は掛からず遠望できたが、諏訪湖の手前から激しい雨になった。休憩。ここから、今日合流する同行者に電話をしたところ、すでに豊科インターを過ぎ長野に向かっていると言う。僕が長野新幹線で移動するのではとの予測した動きだった。申し訳なく思いつつ信濃大町駅前で待ち合わせすることにした。
豊科で降りるとすぐ安曇野らしい風景の蕎麦畑があちらこちらに見える。北の山々は相変わらず雲の中だ。9時30分大町到着、静岡からの走行距離250km、4時間30分。

同行者を待つ間にJA大北の武田さんに電話を入れると彼は目の前の本所に居たので、放牧豚とSPF豚を母豚から一貫生産する白馬アルプス農場事業本部長の常務理事にも訪問表敬に立ち寄り、武田さんの車で白馬に移動を開始した。
148号線を北上、依然、爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五龍岳は姿を現してくれない。木崎湖の東を入ったところに新行という蕎麦の美味しい部落がある。(アア新蕎麦食いたい。)白馬村とこの仁科三湖周辺が信州蕎麦の主産地です。
武田さんが15年前初めて豚を放牧した山を見ながら白馬大池駅構内を右折すると、姫川と山裾を走る糸魚川線に挟まれた場所に白馬アルプス農場はありました。
この環境下ならば周辺に対する畜産公害の問題および外部からの細菌汚染問題も心配にならないだろうと思える立地だ。


僕と繁殖飼育棟 肥育棟
長靴に履き替え、手を洗い、テフロン加工織布製の全身をすっぽり覆う作業服に着替え構内に入る。ここでは構内作業車も一度外部に出ると消毒液のシャワーによって殺菌されるシステムで、大規模養鶏場なども同様の管理体制である。

この農場の一番奥まではおよそ1km余り、最奥部は全農運営の繁殖センターでSPF(Specific Pathogen Free・発育障害や肉質に悪影響を与える病原体を持たない豚)母豚から出産、40日齢までの繁殖飼育ブロック(年間2万2千頭出荷)とJA大北運営のSPF肥育ブロック(年間1万頭出荷)と糞尿の堆肥化施設の3ブロックで構成されている。各飼育棟に入るためには更に浴室で体を洗い精密機械生産工場並の入室システムであるそうだ。当然室内は陽圧環境にあり外部からの空気の進入も許さない。


小豚の生産方法

武田さんと分娩棟

飼育方法は、まず無菌分娩後20日で離乳、繁殖棟で40日飼育、この間に法定の予防接種が行われる。離乳食はヨーグルトを与え徐々に遺伝子組み替えのない濃厚飼料に切り替えるとの事だ。この後子豚は3系統の肥育に分かれる。

まずは、すぐ横のSPF豚肥育棟(白馬アルプス農場で106日、115kgまで肥育される。細菌の進入を防いでいるため病気に罹り難く、その為抗生物質の使用をせずにすむ。)と放牧豚農場(約3千頭)、あとの7千頭近くは長野県下の養豚家に出荷供給されている。


堆肥舎
堆肥舎には各飼育棟から自動排出された糞尿が集められ排出と同時にオガ粉、籾殻、戻し堆肥と混合され、2千トンの処理能力を持つ1次発酵ラインに投入され30日間掛けて堆肥化する。発生する臭気は集気ダクトで集められオガ粉脱臭槽を経て排気される。この後、2次発酵ラインに移動し更に30日間通気発酵され、袋詰されて管内の農地に還元し、環境保全型農産物の米や野菜、果物となって持続循環農業は帰結する。
1次発酵ラインの上部から噴霧されているのは木酢液


いよいよ放牧豚の牧場へ
アルプス農場から更に北上、南小谷の放牧場に移動した。この付近は先年大水害が発生した所で復旧工事が其処ここで行われている。当時放牧豚も流され被害に遇い心配したこともあったが、今もしっかり継続されていた。
山間の桑畑の跡地に転々と放牧場は点在していた。60日齢の子豚はこの放牧場で4ヶ月を自由に野駆けして過ごすため、肩に肉がついて脚がしまり豚美人やマッチョなハンサム豚に育ちます。ブヒブヒ。

放牧前は草茫々の荒地も今や豚ちゃんの鼻蹄耕法(びていこうほう)ですっかり地肌が現れています。

南小谷、白馬地域は豪雪地帯なので放牧期間は4月から11月で放牧場は強制休眠。12月から5月位までは南の八ヶ岳実践農場で放牧肥育されます。

2時も過ぎてお腹も減ったし放牧豚を食べましょうと移動開始、しかし運悪く予定をしていたお店は定休日、そこで道の駅白馬の食堂に入る事にしました。アレ、ここで7・8年前講演したことがあったなと記憶の糸を手繰ると、そうだ「都市の消費者は今何を求めているか」みたいなテーマで放牧豚飼育を普及することと地域特産化するための意図の下に話をしたのですが、いまいち来場者を乗せられなかったことを思い出します。男55歳、最近物忘れ激しき一方、思い出すとやけに鮮明な記憶となって事細かになことまで甦る事あり、みぞれ降る爺ヶ岳で冬毛に換わり始めた雷鳥に出会ったことなど昨日の記憶よりリアルなりき。アア!ジジと思いつつ放牧豚を食らう。うまきなり。

放牧豚は‘野豚’と言う

武田さんの農場のビデオ
豚を放した直後はこんなにみどり。でも4ケ月経つと
鼻蹄耕法(びていこうほう)ですっかり地肌が現れます。
地元では放牧豚の名称ではなく「野豚」と呼んでいます。この冬白馬方面にスキーなどでお出かけの節は是非野豚を食べてみてください。脂肪はサラッとして軽く、臭みなくしっかりした肉質の中に旨味が広がります。ちなみにSPF豚は「白馬アルプスポーク」の名称で販売されています。


このあと、大町にある大北ミートパックセンターを見学。
HACCP実施センターですから衛生管理は万全です。ここでスライスカットされた放牧豚は地元量販店、らでぃっしゅぼーやなどに、屠体は食肉専門店に出荷されます。母豚から生まれて食卓に上るまでのトレーサビリティーは確実に実行されています。


説明ビデオを見ますかと言うので同行者の理解を深めるためにも見ることにした。
そこで出会ったのは十数年前の武田さん。こりゃ使用前使用後の武ちゃだ。


産直宅配の場合はスライス後窒素充填パック、生肉チルド状態で発送、消費期限は1週間です。

「安全・新鮮」「経済効率よりは安全を」「生産効率よりはおいしさを」選んだ結果、種豚から一貫生産している放牧豚は、ここJA大北だけです。量販店ならびに団体の皆様、大北の放牧豚システムはいよいよ本格稼動に入ります。お取り扱いになりませんか。

大町でちと一杯の心残りは有るが車だけ預けて薄暮に霞むアルプスを後に本日の宿泊地長野市に移動。静岡からの総移動距離400キロはさすがに堪え、ホテルの紹興酒1本であえなくダウン。お休みと相成りまし